副業・兼業のときの保険は、「雇用保険は1社だけ」「社会保険は要件を満たせば両方」という原則さえ押さえれば、ほとんどのケースが整理できます。順番に見ていきましょう。
副業しても雇用保険は「1社だけ」?
はい。雇用保険は、同時に複数の会社で雇用されていても、生計を維持するのに必要な主たる賃金を受ける会社(通常は本業)でのみ被保険者になります。副業のアルバイト先で週20時間以上働いたとしても、本業で雇用保険に入っていれば、副業先で二重に加入することはありません。
副業先は「うちでも雇用保険に入れないといけないのでは」と心配しがちですが、本業で加入している人については副業先での資格取得手続きは不要です。逆に、本業を辞めて副業先が主たる勤務先になったときは、そこで加入し直します。
雇用保険の加入要件(週20時間以上・31日以上の雇用見込み)は、2028年10月に「週10時間以上」へ拡大される予定です。対象者は大きく増えますが、「主たる1社でのみ加入」という原則は変わりません。
65歳以上なら「マルチジョブホルダー制度」がある
唯一の例外が、2022年1月に始まった雇用保険マルチジョブホルダー制度です。65歳以上の人が、1社では週20時間未満でも、2社の労働時間を合計して週20時間以上(各社で週5時間以上・31日以上の雇用見込み)になる場合、本人がハローワークに申し出ることで雇用保険に加入できます。会社経由ではなく本人申出である点が特徴です。
副業先でも社会保険に入るのはどんなとき?
社会保険(健康保険・厚生年金)には雇用保険のような「1社だけ」ルールはありません。それぞれの会社ごとに加入要件を判定し、両方で満たせば両方で加入します(二重加入)。判定基準は通常どおり、①正社員の4分の3以上働くか、②短時間労働者の要件(週20時間以上・月額88,000円以上・2か月超の雇用見込み・学生でない・従業員51人以上の企業)を満たすか、です。詳しくは 社会保険の加入条件 をご覧ください。
両方で加入する場合は、「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を10日以内に提出し、主たる事業所を選択します。健康保険証(マイナ保険証の資格情報)は選択した1つの保険者のものになります。
月額88,000円の賃金要件(106万円の壁)は2026年10月に撤廃予定です。撤廃後は、副業先で週20時間以上働くと(企業規模などの要件を満たす場合)月収が少なくても加入対象になるため、副業での二重加入は今後増える見込みです。
社会保険に二重加入すると保険料はいくら?(計算例)
二重加入になると、両社の報酬月額を合算した額で標準報酬月額が決まり、保険料を各社の報酬の割合で按分してそれぞれの給与から天引きします。
| 本業A社のみ | A社+副業B社で二重加入 | |
|---|---|---|
| 報酬月額 | 300,000円 | A社300,000円+B社100,000円=合算400,000円 |
| 本人負担の保険料(月) | 約42,100円 | 合計 約57,500円(A社 約43,100円・B社 約14,400円) |
40歳未満・協会けんぽ三重県・令和8年度料率での概算です。正確な金額は 社会保険料 計算ツール で試算できます。
保険料は増えますが、合算後の標準報酬で計算されるぶん将来の厚生年金も増え、傷病手当金・出産手当金の日額も上がります。「取られ損」ではない点は押さえておきましょう。
個人事業・フリーランス型の副業なら保険はどうなる?
雇用契約ではない副業(個人事業・業務委託・フリーランス)は、雇用保険・社会保険のどちらにも影響しません。本業の会社の社会保険に入ったままで、副業の売上がいくら増えても社会保険料は変わりません(国民健康保険との二重払いも発生しません)。
その代わり、副業の所得が年20万円を超えると確定申告が必要です。会社員の副業の税金については、手取り計算ツール や 年収の壁シミュレーター もあわせてご活用ください。
保険の手続きで副業は会社にバレる?
- 雇用保険:二重加入がそもそもないため、雇用保険の手続きからバレることは基本的にありません。
- 社会保険:二以上事業所勤務届を出すと、合算後の保険料が本業の会社にも通知されるため、実務上は必ず知られます。隠したまま二重加入はできません。
- 住民税:副業分の所得が合算された特別徴収税額の通知から、経理担当者に推測される可能性があります。
そもそも副業を始める前に、本業の就業規則(副業・兼業の届出ルール)を確認しておくのが安全です。
会社側の注意:労働時間の通算と労災
従業員の副業を認める会社側には、保険以外にも注意点があります。労働時間は本業と副業で通算され(労働基準法38条)、通算して法定労働時間を超える部分には割増賃金が必要です(原則として、後から契約した会社が負担)。また労災保険は2020年9月から、複数の会社の賃金を合算して給付額を計算する仕組みになっており、副業先への通勤中のケガなども補償対象です。詳しくは 残業代の計算方法 も参考にしてください。
パターン別早見表
| 働き方のパターン | 雇用保険 | 社会保険 |
|---|---|---|
| 会社員+週20時間未満のバイト | 本業のみ | 本業のみ(副業先は要件を満たさない) |
| 会社員+週20時間以上のバイト(要件充足) | 本業のみ | 二重加入(二以上事業所勤務届) |
| 会社員+個人事業・フリーランス | 本業のみ | 本業のみ(影響なし) |
| パート掛け持ち(どちらも要件未満) | 加入なし(65歳以上は特例あり) | 加入なし(国保・国民年金) |
| 65歳以上・2社合計で週20時間以上 | マルチジョブホルダーで特例加入可 | 各社ごとに要件判定 |
実務でよくあるつまずき
- 副業先が「本業で入っているから」と社会保険まで未加入にする。「1社だけ」ルールがあるのは雇用保険だけです。社会保険は会社ごとに判定するため、要件を満たすのに放置すると、さかのぼって加入(最大2年)となり保険料をまとめて徴収されることがあります。
- 二以上事業所勤務届を本人任せにして出し忘れる。この届出は本人が10日以内に行うものですが、実務では会社側も加入手続きの際に副業の有無を確認し、案内するのが安全です。
- 「副業は自己責任」と労働時間の通算を放置する。通算で法定労働時間を超えれば割増賃金の問題が生じ、過重労働の安全配慮義務も会社に残ります。副業の届出制を就業規則に定め、労働時間を把握できる形にしておきましょう。
保険料がいくらになるかツールで確認
副業で社会保険がどう変わるか気になったら、まず 社会保険料 計算ツール で本業・副業それぞれの保険料を試算してみてください。扶養内で働く家族の副業なら 年収の壁シミュレーター が便利です。
根拠・出典
- 雇用保険の「主たる賃金を受ける雇用関係でのみ被保険者」の取り扱い:厚生労働省 雇用保険事務手続きの手引き。
- マルチジョブホルダー制度(65歳以上・2社合計週20時間以上・本人申出):雇用保険法 第37条の5(2022年1月施行)。
- 社会保険の加入要件と二以上事業所勤務の手続き:健康保険法 第3条、厚生年金保険法 第9条、日本年金機構「複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き」。
- 賃金要件(月額88,000円)の2026年10月撤廃:年金制度改正法(2025年成立)。
- 労働時間の通算:労働基準法 第38条、厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(2022年7月改定)。
- 複数事業労働者への労災給付(賃金合算):労働者災害補償保険法(2020年9月改正)。
よくある質問
副業先のアルバイトでも雇用保険に入りますか?
いいえ。雇用保険は、同時に複数の会社で働いていても、生計を維持するのに必要な主たる賃金を受ける1社でのみ加入します(二重加入はできません)。本業で加入していれば、副業先では週20時間以上働いても加入しません。例外は65歳以上のマルチジョブホルダー制度だけです。
副業すると社会保険料は必ず上がりますか?
必ずではありません。副業先でも加入要件(週20時間以上などの短時間労働者の要件、または正社員の4分の3以上)を満たした場合だけ二重加入となり、両社の報酬を合算した額で保険料が決まります。要件を満たさないアルバイトや、個人事業・フリーランス型の副業なら、本業の社会保険料は変わりません。
週20時間未満の副業アルバイトなら手続きは何もいりませんか?
雇用保険・社会保険の加入手続きは原則不要です。ただし、労働時間は本業と通算されるため会社側には残業代・労働時間管理の論点が残ります。また、副業の給与所得が年20万円を超えると本人の確定申告が必要です。
保険の手続きで副業は本業の会社にバレますか?
雇用保険は二重加入自体がないため、雇用保険からバレることは基本的にありません。一方、社会保険の二重加入(二以上事業所勤務届)をすると、本業の会社にも保険料の変更通知が届くため、実務上は知られます。また住民税の特別徴収税額の通知から推測される可能性もあります。
個人事業・フリーランスとして副業する場合、保険はどうなりますか?
雇用契約ではないため、雇用保険・社会保険(健康保険・厚生年金)とも副業分の加入はなく、本業の会社の社会保険のままです。国民健康保険との二重払いも発生しません。なお、副業の所得が年20万円を超えると確定申告が必要です。
本記事は2026年7月時点の情報をもとにした一般的な情報提供であり、個別事案への適合性を保証するものではありません。具体的なご相談は 酌井社労士事務所 へどうぞ。