季節や時期によって業務の繁閑がある会社では、1年単位の変形労働時間制を使うと、忙しい時期に長め・暇な時期に短めの労働時間を設定でき、全体として効率よく働いてもらえます。ここでは制度の基本と、導入の手順をやさしく整理します。
1年単位の変形労働時間制とは
1か月を超え1年以内の期間(対象期間)を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間以内になるようにあらかじめ決めておけば、特定の日や週に8時間・40時間を超えて働かせても、ただちには時間外労働にならない仕組みです。繁忙期に厚く、閑散期に薄く労働日を配分できます。
主な要件(上限の早見表)
1年単位には、1か月単位にはない細かい上限があります。対象期間を1年とした場合の数字を表で整理します。
| 項目 | 上限 |
|---|---|
| 平均労働時間 | 週40時間以内 |
| 年間労働時間の総枠 | 2,085.7時間(365日の年)/2,091.4時間(うるう年) |
| 労働日数 | 年280日(対象期間が3か月超の場合) |
| 1日・1週の労働時間 | 1日10時間・1週52時間 |
| 連続労働日数 | 原則6日(特定期間は1週1休、最長12日) |
総枠は「40時間 × 対象期間の暦日数 ÷ 7」で計算します。対象期間が3か月を超える場合は、週48時間を超える週を連続できるのは3週まで、という制限も加わります。あらかじめ労働日と各日の労働時間を定めたカレンダーの作成が前提です。
年間休日は何日必要か(1日8時間なら105日)
総枠2,085.7時間に収めるために必要な年間休日は、1日の所定労働時間で決まります。
| 1日の所定労働時間 | 労働日数の上限 | 必要な年間休日 |
|---|---|---|
| 8時間 | 260日 | 105日以上 |
| 7時間45分 | 269日 | 96日以上 |
| 7時間30分 | 278日 | 87日以上 |
| 7時間15分 | 280日(日数の上限) | 85日以上 |
たとえば「1日8時間・年間休日100日」で組むと、労働日数は265日で日数の上限280日には収まります。しかし総労働時間は8時間×265日=2,120時間となり、総枠2,085.7時間を超えるため組めません。8時間勤務なら年間休日105日が最低ラインと覚えておくと設計しやすくなります。
これらの上限を満たしているかは、年間カレンダーを作って確認するのが確実です。当事務所の会社カレンダー作成ツールなら、要件を自動でチェックできます。
導入の手順
① 労使協定を結ぶ
対象期間・起算日・対象労働者の範囲・労働日と労働時間(カレンダー)などを定め、過半数組合または過半数代表者と労使協定を締結します。
② 年間カレンダーを作る
対象期間の労働日と各日の労働時間を、上限を超えないように決めます。
③ 就業規則に定める/労基署へ届け出る
就業規則に制度を定め、労使協定とカレンダーを所轄の労働基準監督署へ届け出ます。
メリットと注意点
繁閑に合わせた人員配置ができ、無駄な残業を抑えられるのが利点です。一方で、あらかじめ定めた時間を超えた分には残業代が必要です。「変形にすれば残業代がいらない」わけではない点に注意しましょう(詳しくは 変形労働時間制の残業代)。
実務でよくあるつまずき
- カレンダーの後出し・途中変更。対象期間が始まったあとに「今月は忙しいから労働日を増やす」といった変更は原則できません。事前に決めたカレンダーどおりに運用し、想定外の忙しさは残業(割増賃金の支払い)で対応するのが正しい形です。
- 途中入社・退職者の精算漏れ。閑散期だけ働いて辞めた人は損をせず、繁忙期だけ働いて辞めた人は働きすぎのままになります。そこで、実際に働いた期間を平均して週40時間を超えていた分には、退職時などに割増賃金の精算が必要です。給与計算の退職処理に組み込んでおかないと漏れやすいポイントです。
- 労使協定の更新忘れ。労使協定とカレンダーは対象期間ごとに作り直し、毎回労働基準監督署へ届け出ます。「導入したときに一度出したきり」という状態では、翌年以降の制度は有効に成立しません。
カレンダーをかんたんに作る
当事務所の無料ツールで、起算日と休日パターンを入れるだけで年間カレンダーを作成でき、280日・週52時間などの要件も自動チェックします。申請用の体裁でそのまま印刷できます。
あわせて読みたい: 1か月単位の変形労働時間制/変形労働時間制でも残業代は出る
根拠・出典
- 1年単位の変形労働時間制の要件(労使協定・対象期間・届出など):労働基準法 第32条の4。
- 労働日数の限度(年280日)・1日10時間・1週52時間・連続労働日数などの限度:労働基準法施行規則 第12条の4。
- 途中入社・退職者への割増賃金の精算:労働基準法 第32条の4の2。
よくある質問
1年単位の変形労働時間制の労働日数や時間の上限は?
対象期間を平均して週40時間以内とし、対象期間が3か月超なら労働日数は1年あたり280日まで、1日10時間・1週52時間が上限です。連続労働日数は原則6日までです。
1年単位の変形労働時間制の導入手順を教えてください。
まず対象期間や労働日・労働時間などを定めて労使協定を結び、年間カレンダーを作成し、就業規則に定めたうえで労使協定とカレンダーを所轄の労働基準監督署へ届け出ます。
1年単位の変形労働時間制にすれば残業代はいらなくなりますか?
いいえ。あらかじめ定めた時間を超えた分には残業代が必要です。変形にすれば残業代がいらないわけではありません。
1年間の労働時間は合計で何時間まで組めますか?
総枠は「40時間×対象期間の暦日数÷7」で計算します。対象期間が1年なら、365日の年で2,085.7時間、うるう年(366日)で2,091.4時間が上限です。
対象期間の途中で入社・退職した人の扱いはどうなりますか?
実際に働いた期間を平均して週40時間を超えていた分には、割増賃金の精算(支払い)が必要です。年の途中の入社・退職が多い会社は、退職時の精算漏れに注意してください。
本記事は2026年7月時点の情報をもとにした(2026年7月12日 大幅加筆)一般的な情報提供であり、個別の事案への適合性を保証するものではありません。法令は改正されることがあります。具体的なご対応は、酌井社労士事務所までお気軽にご相談ください。