「正社員はボーナスをもらっているのに、パートの自分には何もない。これって普通なの?」。夏と冬の賞与シーズンによくいただく質問です。答えは「賞与なし自体は珍しくないが、違法になるケースもある」。順番に見ていきましょう。
パート・アルバイトにボーナスは出る?
まず大前提として、賞与の支払いは法律で義務づけられていません。これはパートに限らず正社員も同じです。労働基準法に賞与の支給を義務づける規定はなく、出すかどうか・金額・対象者は、原則として会社が就業規則や雇用契約で決めます。
実務では、パート・アルバイトの扱いはおおむね次の3パターンに分かれます。
- 賞与なし……時給に織り込む考え方の会社。中小企業ではもっとも多いパターンです。
- 寸志(すんし)……「金一封」として1回あたり数千円〜数万円を支給。感謝や勤続への慰労の意味合いが強いもの。
- 正社員に準じた賞与……勤務時間比例(例:週20時間なら正社員の2分の1)などで計算して支給。
自分がどのパターンかは、入社時に受け取った労働条件通知書(雇用契約書)の「賞与」欄で確認できます。次で説明するとおり、この欄はパートに対して文書で明示する義務がある項目です。
賞与の有無は「文書での明示」が義務
パート・アルバイト・契約社員を雇うとき、会社は昇給・退職手当・賞与の有無を、雇入れ時に文書(本人が希望すればメール等も可)で明示しなければなりません(パートタイム・有期雇用労働法 第6条)。「賞与なし」の場合も、なしと明示する必要があります。違反には10万円以下の過料があります。
手元に通知書がない、賞与欄に何も書かれていない——という場合は、会社に確認してかまいません。会社側の方は、労働条件通知書 兼 雇用契約書の無料作成ツールを使うと、パート向けの賞与・昇給・退職手当の明示欄まで含めて作成できます。パートの通知書の書き方は パート・アルバイトの労働条件通知書 で詳しく解説しています。
「パートだから賞与なし」は違法にならない?(同一労働同一賃金)
ここが本題です。2020年4月(中小企業は2021年4月)から全面適用されている同一労働同一賃金のルールでは、正社員とパート・有期雇用労働者との間で、不合理な待遇差を設けることが禁止されています(パートタイム・有期雇用労働法 第8条)。賞与も対象です。
国の同一労働同一賃金ガイドライン(平成30年 厚生労働省告示第430号)は、賞与についてこう整理しています。会社の業績等への貢献に応じて支給する賞与は、同一の貢献には同一の支給を、貢献に違いがあるなら、その違いに応じた支給をしなければならない——つまり「パートという肩書き」だけを理由にゼロにすることは想定されていません。
一方で、判例では大阪医科薬科大学事件(最高裁 令和2年10月13日)が参考になります。フルタイムのアルバイト職員に賞与が支給されなかったことが争われましたが、最高裁は、正職員とは職務の内容や配置転換の範囲などに一定の違いがあったことを踏まえ、不合理とまでは評価できないと判断しました。
この2つを合わせると、実務の目安は次のとおりです。
- 仕事の内容・責任・異動の範囲が正社員と明確に違うなら、賞与なし・寸志のみでも直ちに違法とはいえない。
- 仕事も責任も正社員とほぼ同じなのに賞与だけゼロ、という状態は不合理な待遇差と判断されるリスクが高い。
- パートから待遇差の説明を求められたら、会社は内容と理由を説明する義務がある(同法 第14条2項)。「パートだから」は説明にならない。説明を求めたことを理由とする不利益な取扱いも禁止されている。
パートのボーナス相場は?寸志はいくらくらい?
パートの賞与は、正社員のような「基本給×◯か月分」ではなく、寸志として1回あたり数千円〜数万円を渡す会社が多いのが実態です。支給しない会社も少なくありません。
比較として、フルタイム勤務の一般労働者の年間賞与は全国平均で約101万円(賃金構造基本統計調査・令和7年公表値)です。ただしこれは所定労働時間フルで働く人の数字なので、「パートなのに平均より大幅に少ない」と落ち込む必要はありません。前提がまったく違います。業種別・都道府県別のフルタイムの賞与相場は 平均賞与を調べるツール、正社員の賞与の決まり方は 賞与の計算方法・決め方 をどうぞ。
パートの賞与・寸志から何が引かれる?
社会保険(健康保険・厚生年金)に加入しているパートの場合、賞与・寸志からは正社員と同じく社会保険料と所得税が引かれます(住民税は引かれません)。
計算例:賞与(寸志)5万円・35歳・扶養なし・前月の給与(社会保険料控除後)6万円・協会けんぽ(三重県・2026年度)の場合。社会保険料は7,324円(健康保険2,442円・厚生年金4,575円・子ども子育て支援金57円・雇用保険250円)。所得税は、前月の給与が少額のため賞与の源泉徴収税率が0%となり0円。手取りは42,676円(額面の約85%)です。自分の条件では 賞与(ボーナス)計算ツール で試算できます。
一方、扶養内で社会保険に加入していないパートの場合、社会保険料は引かれません。週20時間以上働いていて雇用保険に加入している場合は、雇用保険料(賞与額の0.5%)だけが引かれます。パートの社会保険の加入条件は 社会保険の加入条件|パート・アルバイトはどこから入る? で確認してください。
寸志も「130万円の壁」の年収に含まれる?
含まれます。健康保険の扶養(いわゆる130万円の壁)は、通勤手当や賞与も含めた今後1年間の収入見込みで判定されるためです。月収10万8千円前後で調整して働いている方が夏冬に寸志を受け取ると、見込み年収が130万円を超えることがあります。健康保険の扶養判定ツール や 130万円の壁とは で、賞与込みの年収を一度確認しておくと安心です。
実務でよくあるつまずき(会社側)
- 通知書の賞与欄を空欄のままにしている。パートへの雇入れ時は「賞与なし」でも文書明示が義務です(パート有期法6条・違反は10万円以下の過料)。「有(業績による)」とだけ書いて条件を書かないのも、後の「もらえるはず」トラブルの火種になります。
- 「パートさんだから」で説明を済ませている。待遇差の説明を求められたら、職務内容・責任・異動範囲の違いを具体的に説明する義務があります。説明できない差は、見直しのサインです。
- 寸志だから手続き不要と思い込む。社会保険に加入しているパートに寸志を支給したら、金額にかかわらず支給日から5日以内に賞与支払届の提出が必要です(年3回以下の支給が「賞与」扱い)。書き方は 賞与支払届の書き方 をどうぞ。
根拠・出典
- 昇給・退職手当・賞与の有無の文書明示義務と過料:パートタイム・有期雇用労働法 第6条・第31条、同法施行規則 第2条。
- 不合理な待遇差の禁止(均衡待遇)・差別的取扱いの禁止(均等待遇):パートタイム・有期雇用労働法 第8条・第9条。
- 待遇差の内容・理由の説明義務と不利益取扱いの禁止:パートタイム・有期雇用労働法 第14条第2項・第3項。
- 賞与の考え方:同一労働同一賃金ガイドライン(平成30年12月28日 厚生労働省告示第430号)。
- アルバイト職員への賞与不支給の判断:大阪医科薬科大学事件(最高裁 令和2年10月13日判決)。
- フルタイム一般労働者の年間賞与平均(約101万円):厚生労働省「賃金構造基本統計調査(賃金センサス)」令和7年公表値。
- 賞与の社会保険料(標準賞与額)・賞与支払届:健康保険法 第45条、厚生年金保険法 第24条の4。
よくある質問
パート・アルバイトにボーナス(賞与)は出ますか?
法律上の支払義務はパート・正社員を問わずありません。支給するかどうかは会社の就業規則・雇用契約の定め次第です。実務では、賞与なし、または寸志として少額を支給する会社が多く見られます。労働条件通知書の賞与欄で自分の条件を確認しましょう。
「パートだから賞与なし」は違法ですか?
賞与なし自体が直ちに違法になるわけではありません。ただし、正社員と仕事も責任も同じなのに「パートだから」という理由だけで差をつけることは、同一労働同一賃金(パート有期法8条)で禁止されています。判例(大阪医科薬科大学事件)では職務内容等に違いがあるケースの賞与不支給は不合理とまでは言えないとされており、職務の実態しだいで結論が変わります。
パートのボーナスの相場はいくらですか?
寸志として1回あたり数千円〜数万円の会社が多く、支給しない会社も少なくありません。フルタイム一般労働者の年間賞与平均は約101万円(賃金センサス・令和7年公表値)ですが、所定労働時間が違うため単純比較はできません。
パートの賞与からも社会保険料や税金は引かれますか?
社会保険に加入しているパートは、正社員と同じく社会保険料と所得税が引かれます。たとえば寸志5万円・35歳・前月給与(社会保険料控除後)6万円なら、手取りは42,676円(約85%)です。扶養内で社会保険未加入なら社会保険料は引かれません(雇用保険加入者は0.5%のみ)。
賞与(寸志)をもらうと扶養(130万円の壁)から外れますか?
賞与・寸志も年収に含めて判定されます。130万円の壁は通勤手当・賞与込みの「今後1年間の収入見込み」で見るためです。月収を調整して働いている方は、寸志を含めた年間合計を 扶養判定ツール で確認しておくと安心です。
本記事は2026年7月時点の情報をもとにした(2026年7月13日 公開)一般的な情報提供であり、個別事案への適合性を保証するものではありません。賞与の支給条件は会社の就業規則・雇用契約によって異なり、待遇差が不合理かどうかは個別の事情で判断されます。具体的なトラブルや制度設計については、酌井社労士事務所 などの専門家にご相談ください。