会社が支払う賃金は、最低賃金を下回ってはいけません。下回る約束は、本人が同意していても無効です。しかも最低賃金は毎年上がり続けているため、「去年は大丈夫だったのに、今年は割れていた」が現実に起きます。しくみ・チェックの計算方法・見落としやすいポイントを整理します。
最低賃金とは|2つの種類
| 種類 | 内容 | 違反したら |
|---|---|---|
| 地域別最低賃金 | 都道府県ごとに定める。産業・職種を問わずすべての労働者に適用 | 差額支払い+50万円以下の罰金の対象 |
| 特定(産業別)最低賃金 | 特定の産業について地域別より高く設定されることがある | 差額支払い(罰則は労基法24条による) |
両方に該当する場合は高いほうの額が基準です。パート・アルバイト・試用期間中の人にも適用されます。
毎年のスケジュール|10月に改定される
地域別最低賃金は毎年見直されます。おおまかな流れは、夏(7〜8月)に国の審議会が引き上げの目安を示す → 各都道府県で審議 → 例年10月ごろに新しい額が発効、というサイクルです。近年は大幅な引き上げが続いており、毎年10月は全社員の賃金チェックが必須と考えてください。最新額は厚生労働省または都道府県労働局の公表額で確認します。
比較に「含める賃金」「含めない賃金」
最低賃金と比較するのは、毎月支払われる基本的な賃金だけです。次のものは除外して計算します。
| 比較に含める | 比較に含めない(除外) |
|---|---|
| 基本給・役職手当・職務手当など、毎月決まって支払われる賃金 | 通勤手当・家族手当・精皆勤手当/賞与など臨時・1か月超ごとの賃金/時間外・休日・深夜の割増賃金(固定残業代を含む) |
割増賃金の基礎から除外できる手当(→ 割増賃金とは)と似ていますが、精皆勤手当の扱いなどが異なります。別のルールとして覚えてください。
月給制のチェック方法(計算例つき)
月給制は時給に換算して比べます。
時給換算 = 対象となる月給 ÷ 1か月平均所定労働時間
例:基本給20万円(対象手当なし)・年間休日105日・1日8時間(月平均所定約173.3時間)の場合、200,000円 ÷ 173.3時間 = 約1,154円。この金額を、自社の都道府県の最低賃金と比べます。最低賃金がこれを上回る地域では、基本給の引き上げが必要です。
見落としやすいポイント
- 固定残業代は比較から外す。「月給25万円(固定残業代5万円含む)」なら、比較対象は20万円です。固定残業代で見かけの月給を上げていると、基本部分が最低賃金を割れていることがあります(→ 固定残業代の決め方)。
- 10月の改定を賃金表に反映し忘れる。時給のパートは意識しても、月給の正社員のチェックが漏れがちです。賃金表のいちばん下の等級は毎年必ず確認してください。
- どの都道府県の額を使うかは「事業場の所在地」。在宅勤務の人も、原則は所属する事業場のある都道府県の最低賃金で判断します。
- 減額の特例は許可制。試用期間中や軽易な業務でも、勝手に最低賃金を下回る額にはできません。都道府県労働局長の許可が必要で、許可なしの減額は違反です。
下回っていた場合
最低賃金を下回る賃金の定めは、その部分が無効となり最低賃金額で契約したものとみなされます。会社には差額の支払い義務が生じ、地域別最低賃金の違反には50万円以下の罰金の定めもあります。さかのぼりの精算は時効(当面3年)の範囲で必要です。
定額残業代を使っているときは自動チェック
当事務所の定額残業代 計算ツールは、最低賃金を入力すると、固定残業代を除いた基本部分の時給が下回っていないかを自動で判定します。
根拠・出典
- 最低賃金の効力(下回る合意は無効):最低賃金法 第4条。
- 比較から除外する賃金:最低賃金法 第4条第3項、最低賃金法施行規則。
- 地域別最低賃金違反の罰則(50万円以下の罰金):最低賃金法 第40条。
- 減額の特例許可:最低賃金法 第7条。
- 最新の最低賃金額:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」。
よくある質問
最低賃金は毎年いつ改定されますか?
地域別最低賃金は毎年見直され、例年10月ごろに新しい額が発効します。夏に国の目安が示され、都道府県ごとに決まる流れです。10月は全社員の賃金チェックのタイミングと覚えてください。
月給制の人が最低賃金を満たしているかはどう確認しますか?
対象となる月給を1か月平均所定労働時間で割って時給換算します。例えば基本給20万円・月平均173.3時間なら約1,154円です。通勤手当・家族手当・賞与・割増賃金(固定残業代含む)は比較に含めません。
固定残業代は最低賃金の計算に含められますか?
含められません。固定残業代は割増賃金にあたるため比較から除外します。固定残業代を除いた基本部分で時給換算し、最低賃金以上であることが必要です。
試用期間中は最低賃金を下回ってもよいですか?
原則いけません。試用期間中の減額には都道府県労働局長の許可が必要で、許可なく下回ると違反になります。
最低賃金を下回っていた場合はどうなりますか?
下回る定めは無効となり最低賃金額で契約したものとみなされ、差額の支払い義務が生じます。地域別最低賃金の違反は50万円以下の罰金の対象です。
本記事は2026年7月時点の情報をもとにした(2026年7月11日 大幅加筆)一般的な情報提供であり、個別の事案への適合性を保証するものではありません。法令は改正されることがあります。具体的なご対応は、酌井社労士事務所までお気軽にご相談ください。