定額残業代(固定残業代)を導入するとき、いちばん迷うのが「何時間分にするか」です。長すぎると最低賃金割れや求人での敬遠を招き、短すぎると毎月の精算が増えて意味が薄れます。決め方の手順・時間数の相場・書面の書き方まで、導入実務の流れで解説します。
決め方の手順(4ステップ)
- 実態を調べる。直近6か月〜1年の残業時間を人別・月別に集計し、平均と繁忙月のピークを把握します。
- 時間数を決める。平均をやや上回る程度(例:平均20時間なら25〜30時間分)が実務的です。ピークに合わせて長く設定しすぎないのがコツです。
- 金額を計算する。「1時間あたりの基礎賃金 × 1.25 × 時間数」。給与総額から逆算する場合は 定額残業代 計算ツール で自動計算できます。
- 書面に落とす。雇用契約書・就業規則・給与明細の3点セットで明示します(後述)。
何時間分が妥当か(相場と上限)
| 時間数 | 評価 |
|---|---|
| 10〜20時間分 | 精算は増えるが、求人での印象がよく管理しやすい |
| 20〜30時間分 | 実務で最も多い設定。実態と乖離しにくい |
| 45時間分 | 36協定の原則上限と同じ。これを超える設定は避ける |
| 月80時間分など | 過労死ラインに近い長時間を前提とした設定。公序良俗違反として無効と判断された裁判例もある |
時間外労働の原則上限は月45時間・年360時間(→ 36協定とは)。固定残業の設定もこの範囲内が原則です。
最低賃金を下回っていないか必ず確認
対象時間を長くするほど固定残業手当が膨らみ、その分基本部分(基本給)が圧縮されます。基本部分を時給に換算した金額が都道府県の最低賃金を下回ると、それ自体が法違反です。
チェック式:基本部分 ÷ 月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金。最低賃金は毎年10月に改定されるため、改定のたびに再チェックが必要です(→ 最低賃金とは)。当事務所の 計算ツール は最低賃金を入れると自動で判定します。
書面で明示する(3点セット)
固定残業代が有効と認められるには、基本給と区別できる明確な記載が必要です。
| 書面 | 書くこと |
|---|---|
| 雇用契約書・労働条件通知書 | 「基本給◯円/固定残業手当◯円(時間外労働◯時間分)。◯時間を超える時間外労働は別途支給」 |
| 就業規則・賃金規程 | 固定残業手当の定義、対象時間、超過分を別途支給する旨 |
| 給与明細 | 基本給・固定残業手当・超過残業手当を分けて表示 |
求人を出すときも、①固定残業代の金額、②充当する時間数、③超過分は別途支給の3点の明示が求められます(若者雇用促進法の指針)。「月給30万円(固定残業代含む)」とだけ書く求人は不適切です。
実務でよくある失敗
- 「営業手当」に残業代を含めたつもりになっている。時間数も金額の内訳も書かれていない手当は、固定残業代とは認められません。全額が基礎賃金に算入され、残業代を別途全額払うことになります。
- 超過分の精算をしていない。30時間分を払っていても、35時間働いた月は5時間分の追加支給が必要です。勤怠集計と給与計算の連動を確認してください(→ 勤怠集計ツール)。
- 時間数を減らす変更を一方的に行う。固定残業代の減額・廃止は労働条件の不利益変更にあたり得ます。本人への説明と同意のプロセスを踏んでください。
設定額をすぐシミュレーション
給与総額と対象時間を入れるだけで、定額残業代・基本部分・時給単価・給与明細の記入例まで表示します。最低賃金割れのチェックもできます。
あわせて読みたい: 定額残業代とは(有効要件)/残業代の計算方法
根拠・出典
- 時間外労働の上限(月45時間・年360時間):労働基準法 第36条。
- 割増賃金:労働基準法 第37条。
- 求人票での固定残業代の明示:青少年の雇用機会の確保等に関する指針(若者雇用促進法)。
- 最低賃金:最低賃金法(毎年10月頃に都道府県ごとに改定)。
よくある質問
定額残業代は何時間分に設定すればよいですか?
直近の残業実態を集計し、平均をやや上回る20〜30時間分が実務では多い設定です。36協定の原則上限(月45時間)を超える設定は避けてください。極端な長時間設定は無効と判断された裁判例もあります。
固定残業代を払えば、追加の残業代は不要ですか?
いいえ。設定した時間を超えた月は、超過分を別途支給する必要があります。固定額に含めて済ませることはできません。
最低賃金との関係はどう確認しますか?
固定残業代を除いた基本部分÷月平均所定労働時間が、都道府県の最低賃金以上かを確認します。最低賃金は毎年10月に改定されるため、改定ごとの再チェックが必要です。
求人票にはどう書けばいいですか?
①固定残業代の金額、②何時間分か、③超えた分は別途支給する旨、の3点を明示します。「固定残業代含む」とだけ書くのは不適切です。
固定残業代の時間数を後から減らせますか?
減額・廃止は労働条件の不利益変更にあたり得るため、一方的にはできません。目的を説明し、本人の同意を得るなど適切なプロセスが必要です。
本記事は2026年7月時点の情報をもとにした(2026年7月11日 大幅加筆)一般的な情報提供であり、個別の事案への適合性を保証するものではありません。法令は改正されることがあります。具体的なご対応は、酌井社労士事務所までお気軽にご相談ください。