常時10人以上の従業員がいる事業場は、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務です。ただ、就業規則の本当の怖さは「作っていない」ことより、「作ったのに周知していない」「実態と合っていない」こと。効力が認められず、いざというとき会社を守ってくれません。義務の範囲・記載事項・作成から周知までの流れを、実務の落とし穴と一緒に整理します。
「10人以上」の数え方
カウントは会社全体ではなく事業場(本社・支店・店舗など)ごとです。パート・アルバイトも人数に含みます。「正社員は8人だから不要」は誤りで、パート3人を足して11人なら作成義務があります。10人未満の事業場は任意ですが、服務規律や懲戒処分は就業規則の定めがないと行えないため、作成を強くおすすめします。
記載事項|必ず書くこと・定めるなら書くこと
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 絶対的必要記載事項 (必ず書く) | ①始業・終業時刻、休憩、休日、休暇(有給・産休育休を含む) ②賃金の決定・計算・支払方法、締切と支払時期、昇給 ③退職に関する事項(解雇の事由を含む) |
| 相対的必要記載事項 (制度を設けるなら書く) | 退職手当(規程の別表は 退職金表 作成ツール で作成可)/賞与・臨時の賃金/食費・作業用品の負担/安全衛生/職業訓練/災害補償/表彰・制裁(懲戒)/定額残業代/変形労働時間制 など |
懲戒処分は就業規則に定めがなければできません。問題社員への注意・処分の根拠はすべて就業規則です。「制裁の種類と事由」の記載は実務上ほぼ必須と考えてください。
作成から周知までの流れ(4ステップ)
- 作成する。厚労省のモデル就業規則を土台にできますが、そのまま使うのは危険です。自社にない制度(退職金など)の条文が残っていると、その支払い義務を負うことになります。必ず自社の実態に合わせて削り、書き換えます。
- 過半数代表者から意見を聴く。労働者の過半数で組織する労働組合がなければ、過半数代表者から意見を聴き、意見書を添付します。代表者は投票・挙手など民主的な方法で選び、管理監督者や会社の指名はNGです。なお必要なのは「意見」であり「同意」ではありません。反対意見が付いても届出はできます。
- 労働基準監督署へ届け出る。就業規則本体+意見書を提出します(電子申請も可)。
- 従業員へ周知する。各職場への備え付け・掲示・配布・イントラや共有フォルダなど、いつでも見られる状態にします。
周知していない就業規則は「ないのと同じ」
最高裁判例(フジ興産事件)は、就業規則が労働者を拘束するには周知が必要だと示しています。金庫や社長のPCにだけ保管された就業規則では、懲戒処分や服務規律の根拠として使えないおそれがあります。「作った・届け出た」で満足せず、誰でも見られる状態かを必ず確認してください。
変更するとき(不利益変更に注意)
変更の手続きは作成時と同じ(意見聴取→届出→周知)です。ただし、賃金カットや休日削減など労働者に不利益な変更は、原則として本人の合意が必要で、就業規則の変更だけで行うには「変更の合理性」が求められます(労働契約法)。不利益変更は進め方を誤ると無効になるため、事前の設計が重要です。
実務でよくある落とし穴
- モデル就業規則の「退職金」条文が残ったまま。制度がないのに条文があると、支払い義務の根拠にされ得ます。
- パートに正社員用の規則がそのまま適用される状態。賞与・退職金の条文が「全従業員」を対象にしていると、パートにも適用されます。パート用の別規程を作るか、適用範囲を明確にしてください。
- 実態と規則のズレ。始業時刻や手当が実際の運用と違うまま放置されているケース。労基署の調査では規則と実態の両方を見られます。
労働条件通知書とセットで整える
就業規則は職場全体のルール、労働条件通知書は個別の労働条件です。通知書で「詳細は就業規則第◯条」と引用する作りにすると、両者が整合して管理しやすくなります。通知書は当事務所の作成ツールで作れます。
根拠・出典
- 就業規則の作成・届出義務(10人以上)・記載事項:労働基準法 第89条。
- 意見聴取:労働基準法 第90条。/周知義務:労働基準法 第106条。
- 違反の罰則(30万円以下の罰金):労働基準法 第120条。
- 周知と拘束力:最高裁判例(フジ興産事件 平成15年10月10日)。
- 不利益変更:労働契約法 第9条・第10条。
よくある質問
就業規則の作成・届出が義務になるのは何人からですか?
常時10人以上を使用する事業場です。会社全体ではなく事業場ごとにカウントし、パート・アルバイトも含めて数えます。
就業規則の作成から届出までの流れは?
①作成 → ②過半数代表者から意見聴取(意見書添付)→ ③労働基準監督署へ届出 → ④従業員へ周知、の4ステップです。意見は「同意」である必要はなく、反対意見でも届出できます。
就業規則を周知していないとどうなりますか?
最高裁判例により、周知されていない就業規則は労働者を拘束しないとされています。懲戒処分などの根拠に使えなくなるおそれがあるため、備え付け・掲示・データ共有などで必ず周知してください。
厚労省のモデル就業規則をそのまま使ってもいいですか?
おすすめしません。自社にない制度(退職金など)の条文が残っていると、その義務を負う根拠になり得ます。必ず自社の実態に合わせて修正してから使ってください。
10人未満でも就業規則を作ったほうがいいですか?
作成をおすすめします。懲戒処分や服務規律は就業規則の定めが根拠になるため、規則がないと問題行動への対応手段が限られます。
あわせて読みたい: 定額残業代の決め方/有給休暇の年5日取得義務
本記事は2026年7月時点の情報をもとにした(2026年7月11日 大幅加筆)一般的な情報提供であり、個別の事案への適合性を保証するものではありません。法令は改正されることがあります。具体的なご対応は、酌井社労士事務所までお気軽にご相談ください。