退職金制度の導入は、次の5つのステップで進めます。
- 方式を選ぶ(基本給連動型・定額制・ポイント制)
- 水準を決めて退職金表を作る(相場と自社の体力から逆算)
- 原資の準備方法を決める(中退共・社内積立など)
- 退職金規程を作り、就業規則として届け出る
- 従業員に周知する
順番に見ていきましょう。
ステップ1:退職金制度は義務?作る前に知っておくこと
退職金制度を設けるかどうかは会社の自由です(法律上の義務はありません)。ただし、制度を設ける場合は、適用される労働者の範囲・退職金の決定/計算/支払いの方法・支払時期を就業規則に必ず記載する義務があります(労働基準法89条3号の2)。そして規程に定めた退職金は賃金の一部となり、支払義務が生じます。
よくある事故が、厚労省のモデル就業規則をそのまま使い、自社に制度がないのに退職金の条文が残っているケースです。条文が残っていれば、それを根拠に支払義務を負う可能性があります。
ステップ2:3つの方式から選ぶ——どれにする?
| 方式 | 計算のしかた | 向いている会社 |
|---|---|---|
| 基本給連動型 | 退職時の基本給 × 勤続年数別の支給率 × 退職事由係数 | 最も一般的で従業員に説明しやすい。ただし昇給すると退職金も自動で増える点に注意 |
| 定額制 | 勤続年数ごとに決めた定額 × 退職事由係数 | 人件費の見通し重視。給与と退職金を切り離せるので賃上げしやすくなる |
| ポイント制 | (勤続Pt+役職Ptの累計)× Pt単価 × 退職事由係数 | 役職・貢献度を反映したい会社。設計の自由度が最も高い |
かつては基本給連動型が主流でしたが、「基本給を上げたいのに退職金債務まで膨らむ」というジレンマを避けるため、定額制・ポイント制へ移行する会社が増えています。3方式とも、退職金表 作成ツール(無料)で支給額表をその場で作って比較できます。
ステップ3:水準はいくらに?相場と計算例
目安になる統計として、中小企業の大卒・定年モデル退職金は約1,150万円(東京都「中小企業の賃金・退職金事情」)、大企業では約2,559万円(中央労働委員会調査)と、規模による差が大きいのが実態です。学歴×勤続年数×退職理由別の詳しい目安は 平均退職金を調べるツール で確認できます。
たとえば「支給開始:勤続3年・開始1.0か月・1年ごとに+0.5か月・自己都合80%」というシンプルな基本給連動型なら、基本給30万円のモデルで次のようになります。
| 勤続年数 | 支給率 | 会社都合 | 自己都合(80%) |
|---|---|---|---|
| 10年 | 4.5か月 | 135万円 | 108万円 |
| 20年 | 9.5か月 | 285万円 | 228万円 |
| 30年 | 14.5か月 | 435万円 | 348万円 |
自己都合退職の係数は会社都合の60〜90%程度に設定する会社が多く、勤続が長いほど100%に近づける設計も一般的です。受け取る側の税金(退職所得控除)は 退職金の手取り計算ツール で試算できます。
ステップ4:原資はどう準備する?(中退共など)
制度だけ作ってお金の準備がない——これが退職金トラブルの典型です。中小企業の定番は中退共(中小企業退職金共済)で、掛金は月5,000円〜30,000円から選べ、新規加入時には掛金の一部を国が助成します。掛金は全額損金(個人事業は必要経費)にでき、退職金は共済機構から従業員へ直接支払われるため、社内に積立を残す必要がありません。
中退共のほか、企業型の確定拠出年金など選択肢は複数あります。掛金の設計や税務の詳細は、税理士・専門機関にご確認ください。
ステップ5:退職金規程を作って届出・周知する
方式・水準・原資が決まったら、退職金規程として文書化します。盛り込む項目は、①適用範囲(パート・アルバイトを含むか)②支給要件(勤続3年以上など)③計算方法(退職金表を別表として添付)④退職事由による差(自己都合係数)⑤減額・不支給事由(懲戒解雇など)⑥支払時期・方法、が基本セットです。常時10人以上の事業場は、就業規則の一部として労働基準監督署への届出と従業員への周知まで行って完成です。
実務でよくあるつまずき
- モデル就業規則の退職金条文を消し忘れる。制度を作らないのに条文だけ残っていると、支払義務の根拠になり得ます。就業規則を作るとき・見直すときは退職金の章を必ず確認してください。
- 制度だけ作って原資を準備しない。10年後・20年後に必ず支払期日が来ます。中退共などの外部積立とセットで設計しましょう。
- パート・アルバイトの扱いを規程に書かない。対象外とするなら明記が必要です。書いていないと「自分ももらえるはず」という争いのもとになり、職務が正社員と同じ場合は待遇差自体が問題になることもあります。
退職金表を無料で作ってみる
3つの方式・支給率・自己都合係数を画面で変えながら、退職金規程の別表になる退職金支給額表をそのまま作成・PDF保存できます。まずは自社に合う方式と水準の当たりをつけてみてください。
根拠・出典
- 退職手当の就業規則への記載義務(相対的必要記載事項):労働基準法 第89条3号の2。
- 中小企業退職金共済(中退共)の掛金・国の助成・直接払い:独立行政法人 勤労者退職金共済機構。
- 中小企業のモデル退職金(大卒・定年 約1,150万円):東京都「中小企業の賃金・退職金事情」。大企業(約2,559万円):中央労働委員会「退職金、年金及び定年制事情調査」。
- 退職金の税金(退職所得控除):所得税法 第30条、国税庁タックスアンサー No.1420。
- パート・有期雇用労働者の不合理な待遇差の禁止:パートタイム・有期雇用労働法 第8条。
よくある質問
退職金制度を作ることは会社の義務ですか?
義務ではありません。退職金制度を設けるかどうかは会社の自由です。ただし、制度を設ける場合は、適用範囲・計算方法・支払時期などを就業規則(退職金規程)に必ず記載し、労働基準監督署へ届け出る必要があります(労働基準法89条3号の2)。規程に定めた退職金は支払義務が生じます。
中小企業の退職金の相場はいくらですか?
東京都の調査(中小企業の賃金・退職金事情)では、大学卒が定年まで勤めたモデル退職金は約1,150万円です。大企業(中労委調査)は約2,559万円で、企業規模による差が大きいのが実態です。学歴・勤続年数・退職理由別の目安は平均退職金を調べるツールで確認できます。
中退共(中小企業退職金共済)だけで退職金制度になりますか?
なります。中退共は掛金月5,000円〜30,000円を外部に積み立て、退職時に共済機構から従業員へ直接支払われる国の制度で、新規加入時には掛金の一部を国が助成します。中退共を使う場合も、就業規則(退職金規程)への記載は必要です。
パート・アルバイトも退職金制度の対象にする必要がありますか?
対象にするかどうかは制度設計次第ですが、対象外とするなら規程に明記が必要です。職務内容が正社員とほぼ同じなのに退職金だけゼロという扱いは、同一労働同一賃金(パート有期法8条)の観点から不合理と判断されるリスクがあります。
一度作った退職金制度の水準を後から下げられますか?
原則として簡単には下げられません。支給水準の引き下げは労働条件の不利益変更にあたり、労働者の同意や変更の合理性が必要です。導入時は控えめな水準で設計し、業績に応じて上乗せしていく方が安全です。
本記事は2026年7月時点の情報をもとにした一般的な情報提供であり、個別事案への適合性を保証するものではありません。具体的なご相談は 酌井社労士事務所 へどうぞ。